Bass Love 2011 Best Disc Guide

BONUS TRACK

【まえがき】

Bass Love 2011 Best Disc Guide今年は特別付録に続いてボーナストラックとして、2010年春にBreakageの2ndアルバム『Foundation』日本盤のリリース記念に、正確に言うとせっかくの日本盤がリリースされたのにライナーノーツがついていないという事態に「この名盤に日本語ライナーが無いなんて!勿体無い!」と立ち上がった有志がボランティアでオンラインライナーをやろう!と発売元に提案、企画されたライナー鼎談、諸事情により未発表のままだったものをここに本邦初公開させて頂きます。(尚、この企画にはD&BサイドとUKアーバンサイドがあって、今回公開するのは僕ERAGURU、名古屋XLNTZクルーのAGO、鈴木一彰の3人で徹夜明け4時間に渡って行われたUKアーバンサイドです。ちなみにD&BサイドはSoiクルーが担当。)

2年も前の企画を何故今頃お蔵出しするのか?という理由については、この鼎談のテーマがBreakageのアルバムをダシに(笑)、Jungle/D&B〜2step/UK Garage〜Grime/Dubstep/UK Funky〜現在に至る(ホントはもっと前からの話も含む)UKアーバンとかサウンドシステムミュージックとかUKベースとか言葉は何でもいいんだけれど、とにかくそういう総体というか連続体について語っている日本語のテキストとしては、割に稀有な内容のものだからと(僭越ながら)僕は考えるからです。

日本の音楽ジャーナリズムにおいて1990年代のUKのクラブシーンで最も重要な役割を果たしたJungle/D&Bについては一定の評価が得られています。しかし2000年代以降、UKクラブシーンで最も重要な影響を与えたUK Garageについては、残念ながら正当な評価をされることなく現在に至っています。それは当時、殆どの日本の音楽関係者がこの音楽の重要性に気づかずに完全にただの流行りモノとしてスルーしてしまった事に原因があると思います。要するに「無かったことに」されてしまった訳です。しかしながら現在隆盛を誇るDubstepやそれ以降のUKベース・ミュージックは完全にUK Garage以降の地続きの存在で、UKGがなければ生まれなかったのです。このことはUKではごく当たり前の事実として多くの人に共有されています。その片鱗はDubstepのDJが来日時にセットの中にUK Garageのクラシックスを挟み込んでピークを作ったりする点にも現れています。実はそういうUKアーバンミュージックの70年代後半から90年代のD&Bまでの地続き的な連続性の面白さは、多くの先輩DJや音楽ライター、レコードバイヤーさん達から僕等が教わってきたことでした。しかし何故か残念なことにUK Garage以降、それが途切れてしまった。しかし、それは決して消えてなくなっていたわけではなく、ちゃんと地続きで進化/変化しているんだということを僕等は常に感じてきたし、それがこのBreakageのアルバムにもまさに現れている。そこが僕等がこのアルバムを面白いと感じたところだし、このライナーを企画した理由でもあったのです。

という訳で、まあお時間あればちょっと暇つぶしにでも読み飛ばしてみて下さい。案外面白いかもしれませんよ。w

(話の中で出てくるアーティスト名やキーワードについての脚注的なディスクガイドを作成予定だったのですが、それは結局途中で止まってしまったので、気になった方はこんな時代ですので是非ググるなり、なんなりしてみて下さい。)


【BREAKAGE - FOUNDATION アルバムオンラインライナー】

「NEW FORMS」以来のクラシックか?


AGO(以下、ア):ライナーつっても、完全ボランティアで僕ら集まってるわけで。みんな自分で買ってるし(笑)。僕らにそこまでさせる「FOUNDATION」の魅力っつーのをまず訊こうかな。

鈴木一彰(以下、ス):単純にアルバムとして考えてもバランスいいし完成度高いってのはもちろんある。インタールードも凝ってるし、トラックの寄せ集めじゃないトータルアルバム。

ERAGURU(以下、エ):そうだね、時代に消費されない永く聴けるアルバム。時代のエッジに立ってる最新のサウンドって意味なら、BENGAや他アーティストのアルバムの方が刺激はあるけど・・

ス:ドラムンベース隆盛期にも色々アルバムあったけど、ダブステップにとってのREPRAZENTの「NEW FORMS」みたいになるのはこっちじゃない?っていう。NEW FORMSの場合も当時TALKIN' LOUD(Gilles Petersonが運営していたAcid Jazz系レーベル)から出たってのが象徴的だったけど、「FOUNDATION」にも、同じ風通しの良さがあるよね。シーンの内側だけじゃなくて、ちゃんと外側とのアクセスができる色んな音楽的な要素が入ってる

エ:NEW FORMSってドラムンベースのフォーマットの中にジャズとかロックとか色んな音楽的要素を上手く取り込んで、シーンの外に扉を開いた名盤じゃない?スタンスはあくまでもドラムンベースのアーティストとして。その比較で言うとさ、「FOUNDATION」の場合は、ダブスップの代表作的な扱いをされているけど、実はこれ聴けば分かるけど純粋なダブステップ・アルバムではないんだよね。色んな物が混ざり合ってる。様々な音楽的エッセンスで一つの世界観が構築されている、ってのが俺らには需要な点で。

ア:そのエッセンスって具体的に言えば何だろう?

ス:例えばレゲエからだったらDAVID RODIGANのお説教が入り、UKファンキーで言えばDONAE'Oが歌ってたり、UKヒップホップだったらROOTS MANUVAが居て・・・みたいな。BREAKAGEを中心にしてUKのベースミュージック全体に繋がる音楽的要素を網羅してるんだよね。
で、しかもそれを出したのがSHY-FXのDIGITAL SOUNDBOYっていう。


SHY-FXとDIGITAL SOUND BOYの存在感


エ:そう、そういう外部に広げるアプローチを進めてるのはSHY-FXなんじゃないかって。実際クレジットを読むとさ、オレらがひっかかる様なクロスオーバーな曲は大体ヴォーカル入りで、その録音はほぼSHYがやってる。BREAKAGEもインタヴューで言ってるけど「ヴォーカル録りはした事無かったからSHYに手伝ってもらった」って。片や、従来路線のJUNGLE/D&Bのトラックは一人でやってるっていう図式だよね。

ス:なるほど、じゃやっぱりよりブラックミュージックの匂いのする曲ほどSHYが関与してると。

エ:うん。実は前のアルバムでも、半分近くD&Bじゃないアブストラクトっぽい曲が入ってるのは入ってるんだけど、ドラムンベースのアーティストアルバムってダウンテンポのブレイクビーツ入れてアクセントにするのは結構常套手段だから。それでもBREAKAGE自体がドラムンベースってジャンルに収まりきってないんだろうな、って予感は感じさせる内容で。
だからDIGITAL SOUNDBOY移ってダブステップ出して、って言うのはもの凄くナチュラルな流れだったんだよね。全然違和感無く。で、今回のアルバムはよりUKアーバンの流れを網羅してて、UKヒップホップから始まって、レアグルーヴやジャズ行って、グランドビート行って、ジャングル行って、ドラムンベース行って、UKガラージ行って、ダブステップ行って・・・みたいな流れがちゃんと1つのパッケージに収まってる感じ。でその部分てやっぱSHYが提案した部分が大きいんだろうなと。

ア:なるほどね。やっぱりSHY-FXとDIGITAL SOUNDBOYについてもここでちゃんと触れておくべきかな。

ス:SHY-FXってやっぱジャングルの人ってイメージだよね。それこそ2ステップやってたりとかさ、そういう側面ってあんまり語られないよね。

エ:SHYって言ったら一番最初のブレイクがORIGINAL NUTTAHで、次にBAMBAATA。でもそこで一旦止まるんだよね。その間にSHAKE YOUR BODYが出て2ステップに行って蘇って、RAHとかさ、DIGITAL SOUNDBOYの一連のPOP路線のシングルがパンパン出て、それでまとまったのが自分のあのアルバム(「DIARY OF A DIGITAL SOUNDBOY」)。要するにDIGITAL SOUNDBOYの最初のアルバム。で、DIGITAL SOUNDBOYからの次のアルバムがこのBREAKAGEなんだよね。

ア:その2枚の関連性はきっと凄く強いと。SHYのアルバムから「FOUNDATION」にかけてのDIGITAL SOUNDBOY路線の確立って言う。

ス:オレの中ではFEELINGS(DIARY OF A DIGITAL SOUNDBOY収録曲)のINCOGNITO REMIXが凄いデカくてさ(笑)リミックスの出来も良いんだけど、INCOGNITOに発注するっていうドラムンベース界には無いセンスが(笑)。常にアーバン目線っていうか。Michael JacksonとかIsley Brothersとかのネタ使いも。そういえば、その昔Calling Youのカヴァーまでやってる(笑)

エ:そう、(SHYは)最初からずっとそういう目線は持ってて、時代時代の空気を上手く捉えたプロデュースをしてるからね。今回のBREAKAGEにもそれは凄く感じられる。DIGITAL
SOUNDBOYのレーベル契約アーティストもさ、まあBREAKAGE契約すんのは自然だと思うんだけど・・・でもUK FUNKYのATTACA
PESANTEとかさ(笑)、「え?そこ行くの?」って言う(笑)。ブロークン・ビーツのDAZ-I-CUEとかも契約してるよね?DAZの新曲もSKREAMのBURNING UPと同じジャングルっぽいビートパターンでさ。だから「今の美味しいトコここでしょ?」っていう提案は凄く感じる。

ス:嗅覚だよね、SHY-FXの持ってる。もちろんベースミュージックってのは基本にありつつ、必ず時代に沿ったポップさとエッジを引き寄せてくる。で言うまでもなくBREAKAGEは才能あるからさ、それを通して時代に則したクラシックにするって言う。多分BREAKAGEだけで作ったらこういう作品にはなってないよね。DIGITAL SOUNDBOYだからこそ、こういうヴァーサタイルな作品になったってのは確実にある。

エ:そのSHYの嗅覚がさ、ドラムンベースだったりの一つのフォーマットに留まる危険性を感じてたのかもしれないよね。レーベル始めた時点から。そうじゃなくてベースミュージック全体を時代時代で更新していくスタンスこそ大事なんだと。実際、DIGITAL SOUNDBOYが始まった2005年位あたりからドラムンベース・シーンの停滞が始まったじゃない?ZINCがクラック・ハウスを始めたりさ。その中でDIGITAL SOUNDBOYはドラムンベースを出しながらも、BREAKAGEと契約してハーフステップD&B、そしてダブステップをリリースしていく。で、そのスタンスを更に推し進めてUKガラージ、UKヒップホップ、グライム、UKファンキーなんかの要素を取り入れて出来上がった現在進行形が「FOUNDATION」だと。


FOUNDATIONがまとめあげた、2010年のUKアーバンの全体像

ス:ダブステップって日本だと支持する層がアンダーグラウンドなスタンスな人が多いじゃない?そのせいかどうしてもストイックな音楽って認識が強いじゃん?シリアスな態度だったり、最先端のレベルミュージックだったりの側面ばっかりフォーカスされるっていうか。(※2012年注:2010年当時はそうだった。)

ア:エレクトロのDJが喜んでRUSKOかけるみたいな現場は眼中に無いって言うね。

ス:その偏り方を是正したいって言うのもあるね。ライナーやろうって思った一因には。

ア:BURIALやHYPERDUBを聴いてアレこそがダブステップだと思ってるヒトにとっては、全然違う聴き方がここでは提示されてるよね。

エ:もちろん聴いた事無い人がダブステップの金字塔として買ってみたとしても、ハイクオリティなトラックがいっぱい収録されてるんだけど、それ以上にここから他のアーバンなジャンルに繋がっていく外向きのネットワークが張りめぐらされてて、もっともっと深くて広いフィールドに行けるでしょ。

ア:例えば1曲目からして完全なダブでさ、UKのサウンドシステムカルチャーのFOUNDATION(=基礎)中のFOUNDATIONがまず最初に置かれてて。そのまま2曲目ではDAVID RODIGANが登場する・・・でこのDAVID RODIGANさんってのは・・・。

エ:UKのレゲエ伝道師DJ。70年代後半からラジオでやってる。日本で言うとピーター・バラカンさんみたいな存在かな。バラカンさんの場合、伝えてるのはUKロックやR&Bで、レゲエじゃないけど。。。
UKのサウンドシステムカルチャーの根底にあるのは間違いなくレゲエ。そのレゲエを長年に渡ってラジオやDJ、メディアを通じて伝えて来た一番のルーツの人だよね。

ス:その人のありがたいお説教が聴けるトラック(笑)。

エ:で、そこにグライムによる現代のお説教が被るっていう(笑)

ア:ダブステップのビートにグライムのMCがのってRODIGANのスピーチがのるってのはまさにこのアルバムを象徴してるよね。

エ:現在・過去・未来みたいな感じだよね。

ス:一緒ですよ。地続きですよって。UKファンキーの顔役のDonae'oが参加してるのも同じこと言えると思うんだけど、みんなひとつの歴史の上に成り立ってます、みたいな。

エ:ERINやZARIFをフィーチャーしたトラックなんかの歌モノダブステップも、すごくUKソウル解釈でさ、メタリックな音でゴリゴリ行くんじゃ無くて。

ス:こっちはある種グラウンドビート的な・・・UKレゲエ目線のR&Bって言うのかな。

エ:うん。新型のソウルミュージックとして聴けるんじゃないかな。イギリスはいつの時代にもそういうアプローチは常に起こるけど。でもそれこそ鈴木くんが自分のパーティーでこういうテイストで1時間とかあり得る感じじゃない。

ス:出来る出来る。というかこういう音にこそ、軸のあるクロスオーバーを感じるけどね。 話がズレるかもしれないけど、日本だとジャズ/クロスオーバーのパーティでBREAKAGEプレイされるってことはほとんど無い。 でもブロークンビーツはプレイされるてよね?SEIJIやDOMUとかブロークン・ビーツのアーティストは結構ドラムンベース畑出身だったりするけど、 その本質的な部分、UKファンキーとかダブステップからエレクトロまで繋がっちゃうベースミュージックとしての動きはなかなか理解されてない。もうちょっと現在進行形のベースミュージックも含めたクロスオーバー感が浸透すればな、って思う。

エ:なんかやっぱUKアーバン・ミュージックって全部根っこで繋がってるじゃん。そこはみんな知って貰いたいよね。

ア:そう、その「UKアーバン」って枠組みターム自体を説明しないといけないかも。BBCの1XTRAなんか聴いてる人には分かるんだろうけど、それこそAMY WINEHOUSEからDIZZE RASCAL、ドラムンベースやダブステップまでを含めてひとつの国のブラックミュージックとして楽しむっていう、この感覚を伝えたいんだけど。

エ:それこそレゲエのサウンドシステム文化まで遡って・・・

ス:そう、レゲエ感覚さえ分かれば全部分かるはず。 「レゲエはレベル・ミュージックだ」なんてのは、以前から言われてる事で、 元々そういう音楽だし今更ここで言う事でもない(笑) でもレゲエにはCELINE DIONのカバーもあるじゃん? JAH SHAKAのサウンドシステムから流行のポップスのカバーまで、 それを全部含めて一個のレゲエって音楽として捉えるような感覚があれば、 見え方、聴こえ方ももっと広がってくると思う。 ディープな面だけじゃなく、一見チャラチャラいとされる面も凄い重要。

エ:ジャングルにしてもガラージにしてもファンキーにしても、最初の原始的なヤツはチャラチャラしててダサいのが多いよね。ジャングルがドラムンになったりUKガラージがダブステップになったりすると整理されて音楽的になるから、オレら外国人から見ても共感しやすくなるけど、メジャー志向のガラージもアンダーグラウンドなダブステップも根本で共有してるRIDDIMの生命力は同じだと思うんだよね。そこを見逃すとUKアーバンの大きい流れが見えないからもったいない感じはするなあ。

ア:USアーバンと同じようにUKアーバン・ブラックミュージックとしてマルっと楽しめればイイんじゃない?アメリカと比べるとイギリスは割合的にカリブ系移民多いからさ、そこでの黒人音楽は当然こういうカタチになる、ってのがあるよね。常にレゲエやカーニバル・サウンドのルーツが反映されるヨーロッパの都市の音。あとはやっぱりレイヴ以降、ジャングルの発明は何にしても大きいんだろうな。来日するドラムンベースのアーティストの話を聞いてても、自分たちの独自の文化としてのプライドを凄く感じるし。

エ:それ以前はよその国の音楽をマネて楽しんでたのが、初めて自分達のオリジナルなフォーマットを作り上げたわけだからね。

ア:ジャングルに対応してイギリスはクラブのサウンドシステムも一気にバージョンアップされたわけで、それによって以降のハウスの音さえ変わらざるを得なかったわけだし。

ス:UKのハウスがスピードガラージになってUKガラージになってダブステップになって、って流れも完全にジャングルがあったからこそでしょ。

エ:だからUKアーバンってのはジャングル以降ずっとそのUK独自のRIDDIMの更新をして来たんだと思うよ。ジャングル~ドラムンベース~UKガラージ~ダブステップ~UKファンキー・・・ってひと繋がりに。この「FOUNDATION」ってのは、まさにそういうのを俯瞰できるアルバムだよね。ダブステップから入った人にもUKアーバンサウンド全体を楽しめるようになってる。レゲエやダブも含んだひとつの大きなジャンルとして。

(2010年2月某日、名古屋Artical事務所にて)